エレキテイル

エピローグ

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 バチバチッッッ!!!
 
 むきだしの回路に涙。あっと思ったときには漏電していた。全身の回路が激しく火花を上げ、衝撃はデフィアにも大電流となって伝わった。さらに二機のエネルギーは木の上の鳥にまで届いて、ぴぴぴぴぴと異音を発した。

 二機の思考は一瞬の空白の後、復帰した。
「びっくりした……まさか、涙で漏電するなんて。これ、蒸留水?」
 ミイタは目で見える範囲の回路をチェックしながら聞いた。
「いえ、この涙は、たまたま雨水が溜まったものですから、水蒸気より電解質が多いんです。ミイタ、大丈夫ですか?」
「なんとか」
 安全装置が作動して回路がいくつかオフになっているが、物理的な損傷はなさそうだ。
「デフィアは無事かい?」
「おそらく……あっ」
 デフィアが慌てた声を上げた。
「どうしたの?」
「女王の物語が消えてしまいました」
「ええっ?!」
 ミイタはデフィアから飛び出すほど仰天した。大惨事だ。全てが水泡じゃないか。物語ができる喜びの涙が、物語そのものを消し去ってしまうなんて、あまりに残酷だ。
「でも、ミイタ、私の話を聞いていたのでしょう? 覚えていますか?」
「ええと……」責任がのしかかり、回路が若干遅れた。なにせ百年の重みがある。「女王はいつもお部屋にお篭りになって、小さな、鈴のような形の装置をお作りでした。それから……ええと」
 加えて漏電の後では、あの長い話を思い出すのは負担が大きい。
「やばいぞこれは。かなり嘘で塗り固めないと聞けたもんじゃない」
 自信がないことをアピールしてみるが、デフィアは静かにミイタを見下ろしていた。
「ミイタ、私の話は全て暗記したと仰ってましたよ」
「そんなこと言ったっけ?」
「はい。ミイタも記憶回路に異常が出たのではありませんか?」
 漏電のせいではなく、自分も記憶が消えてしまったのか。なにを忘れ、なにを覚えているのか?
「気づかなかった。でも、そしたら、二人とも物語を覚えてないじゃないか。どうしよう?」
 動揺するミイタと対照的に、デフィアは妙に落ち着いている。
「いっそ、新しい物語を作ってしまいましょうか。いまの漏電の衝撃のように、記録できないくらい感動的な物語がいいわ。あの鳥が新しい鳴き方をするような」
「デフィア……?」
 大電流で思考回路が焼けたのかだろうか。少女は涙を拭い、自分の使命を置き去りにした提案を満面の笑顔で語った。
 ミイタは困惑で回路が焼けそうだ。
 そこで彼女は囁いた。
「嘘ですよ」
「えっ、どこから?」

 真実の隙間を嘘で飾れば、物語は永遠に人を楽しませるだろう。

Fin.
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